前編 1/2

 真夏の午後四時。天気は快晴。

 言葉通りに雲一つない空から、未だに高い位置にある陽の光が燦燦と降り注ぎ、教会内に植えられた花々は水分を失って心なしか頭を垂れている。

 そんな中で私は日傘を差して待ち合わせ場所に向かっている。

 

 私と彼はいつも教会内にある庭園のどこかで待ち合わせをして、三十分や一時間ほど話をして、それぞれの場所へ帰るようにしていた。逆にそれ以外に会うことは全くと言っていいほど無い。遠目に姿を確認することすら。

 今の私は教会の中ならどこにでも行けるけれど、彼はそうではない。限られた範囲しか立ち入れなくて、私が住んでいる場所には近づけないと言う。

 だったら私が行けばいいと会いに行ったことはあったものの、私があまりに目立ちすぎるせいで大変だったらしく止めることになった。

 代わりにこうして毎日約束をして会うことにした。

 

 ――けれど、それを始めたのは穏やかな気候の季節の話で。これほど暑いのに外で待ち合わせをするのはお互いの健康に良くない気がする。

 しかもこの調子だと冬はどうなってしまうのだろう。何とか室内で会えるようにしたくて、彼にも、最近親しくしてくれるようになったお手伝いさんにも相談しているけれど、まだ策が固まっていない。

 結局今日もこうして汗を流しているわけだった。

 

* * *

 

 庭園の奥まったところの四阿に、既に彼は座っていた。

 見るからに暑そうにぐったりと項垂れていて、まだ私には気づいていない様子だ。

 

「ユーグ、お待たせ。……大丈夫?」

「……大丈夫ではないですね」

 

 日傘を畳みながら声をかけると、彼はうんざりした顔でそう言って姿勢を正す。

 

「すみません、私の都合でこんな暑い時間になってしまって」

 

 次に顔を見たときには、彼はもう穏やかな笑みを浮かべていた。

 常に浮かべている、いつもの笑顔。

 彼が意図してその笑みを浮かべていることを私は知っている。以前会いに行ったときに遠目に見た彼は全然違う表情をしていたし、私と話しているときでもふとした拍子に表情が崩れることがあるから。正についさっき、うんざりした顔をしていたように。

 それについては特に何も言うつもりはない。きっと私に見せている顔が嘘なわけではなくて、どちらも本当なのだろうし。たまに違う表情をしているのも、一つずつ新しい一面を知っていくようで好きだから。

 

「ううん、私が帰らなきゃいけない時間が早いせいもあるから……。どうにか夜に部屋を出られればいいんだけど」

「それは難しいと思いますし、私もあまり夜に出歩いてほしくないですね……」

「教会の中なら危ないことは無いと思うけど」

「ネージュ様が住んでらっしゃる塔の周辺は警備が厚いんですが、それ以外はそうでもないんですよ。時々不審者がいるって騒ぎになったりしていて」

「そうなんだ」

 

 きっと私のほうが長くこの教会に住んでいるけれど、彼のほうが多くのことを知っている。

 

「熱中症で倒れても困りますし、朝に時間が取れなかったらやめたほうがいいかもしれないですね」

「それは嫌」

 

 何も考えず反射的に即答してしまった。

 彼は一瞬固まって、ほんの少し眉を顰めて口を引き結ぶ。これは照れている顔だと私はもう知っている。

 

「だって一週間くらいずっと朝に演習があるって言ってた。そんなに会えないのは嫌。ユーグは嫌じゃない?」

「……まあ、私も嫌ですけど」

 

 いつもの柔らかい声色ではない。渋々言っている。

 そういう反応をするだろうと思っていじわるな聞き方をしたから、思った通りになってつい笑ってしまう。

 

「また楽しそうにして……」

「うん。楽しい」

 

 じとーっとした目を向けられても嬉しいだけだった。言うのが恥ずかしいと思いながらも、はぐらかしはせず言葉にしてくれるところが好きだ。

 彼は目を閉じて長く息を吐き。

 

「――あ、そういえば今日はアイスを買っておいたんですよ」

 

 ぱっと笑顔で話題を変えた。