後編 1/4

 真夏の午後四時。今日も天気は鬱陶しいほど良い。

 

「あー……暑い」

 

 自然にそう吐き出してしまうほど、四阿の中で日差しを遮っていても暴力的な暑さが纏わりついてくる。

 彼女をこんな中で一分も待たせたくないので十五分前からここにいるけれど、全然暑さに慣れない。

 でもそろそろ来るはずだから、あまりぐだっとしていられない。昨日は暑さに負けてぐったりしているところを見られてしまったが。

 少し背筋を伸ばしてみると、遠くに日傘を差した彼女が見えた。

 ――事前に聞いていた通り、初めて見る装いをしていた。

 

* * *

 

 遡って二時間ほど前。

 

「ユーグさんっ」

 

 自販機で飲み物を買っているところで、猫なで声と共に後ろから背中を叩かれた。

 振り返ると、丈の長いメイド服を着た少女が一人、にこにこして立っている。

 

「ニナ。……一人だよな? 何?」

「一人ですよ。相変わらずネージュ様以外には塩対応ですね、このクソ野郎」

 

 先ほどの声とは打って変わって流れるように笑顔で罵倒されたが、いつものことなので特に何も思わない。

 ニナは彼女が大聖女になってから彼女付のメイドになった少女だ。

 彼女とも親しくしているという。彼女は今まで意図的に親しい存在を作れないようにされていたので、初めて同性の友人ができて嬉しいと言っていた。

 ニナは俺か彼女が急用で待ち合わせに行けなくなったときなどに伝言役をしてくれたりしている。

 本人によると俺と彼女の関係を応援はしていないらしいのだが、彼女の幸せは願っているので結果的に協力しているらしい。

 そしてなんだかんだで俺とも友人のような関係になっている。

 

「なんか猫被った声が聞こえたから一人じゃないのかと思った」

「第一声が『クソ野郎』じゃ可哀そうかと思って可愛く言ってあげたのに損しました。次からは『おい、クソ野郎』って声かけますね」 「それはいらないけど」

 

 ニナは俺の前だとこんな感じだが、彼女の前ではかなり猫を被っている。

 おそらく彼女はニナの口から『クソ野郎』なんて言葉が出てくることを知らないだろう。ニナ曰く「ネージュ様の清らかなお耳に汚い言葉を聞かせるわけにはいかない」とか。

 そんなわけで、稀に彼女と三人で話すときはお互いに普段と全然違う態度で話さなければならず、気恥ずかしいやら面白いやらで大変になる。最初にそういう状況になったときは後で散々爆笑された。

 というのは置いておき。

 

「で、何? 来られなくなった?」

 

 ニナが来るということは、待ち合わせの中止という可能性がある。

 

「いえ、今日はそういうのじゃないです。わたしの個人的な用事なので安心していいですよ」

 

 が、今回は違うらしかった。